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音に浮かされる(探鉱者と写真家)

磁石の反応と同時に、視界の端に光を捉える。
斬りつけられた衝撃だけでなく磁力の反発も加わって伸びた滞空時間はノートンが心の中で悪態をつくには十分どころか、普段は信仰もなにもない神を恨むほどだった。
「不調とか嘘だろ……」
むしろ絶好調じゃないか、と真っ直ぐに自分の方へ向かうジョゼフを地に伏したまま見つめれば、にっこりと笑いかけてくる。
ことの発端はフィオナが「連携と技術向上のため四人でゲームにいこうじゃない」と言い出した事だ。一銭にもならず厄介事しか産まない気配を感じ逃げようとするも、トレイシーとルカに阻まれてしまえば諦めるしかない。
「………っていうか、何でわざわざ今」
人を捕まえておいてただの思い付きとは言わないだろうなと問いを投げ掛ければ待ってましたとばかりに三人が口を開く。
「実はねぇ、うちのハンターさん達も結構この時間帯出てるからもし会えたらついでに色々教えてもらえるかなぁって」
「しかも最近ジョゼフ氏は不調と聞いている!あわよくばぎゃふんのチャンスなのだよ!」
「猛者が相手なら胸を借りるつもりだし、貴方の利益として希少鉱石もご用意しておりましてよ!」
最後にばーんと音のなりそうな勢いで謎のポーズをとるのを見てノートンは、「酒も追加で……高いやつ」とだけ言った。
そうして挑んだ数戦目。待機ホールに訪問してきた写真家はどことなく見知った感覚がして、ぞくりと背筋が凍るのが分かった。しかし一度幕が上がってしまえば見知っていようが関係ない、定石通り動くだけだ。
全体的に負傷が進むも解読も順調にいき、残りわずかになったところで違和感に気がつく。
何度も負傷し、何度もダウンさせられている。けれどチェアに座らされたのは精々写真世界でだけだった。
「もしかしなくても、私達の失血死狙いなのかもしれないね」
「……そう思うのならさっさとやって」
途中顔をあわせたルカと数言交わして走り出す。
狙いがわかれば治療よりも解読優先、自分とフィオナのどちらか囮になれば問題なく、事実引き付けることができそれなりに時間を稼げた。少し短かったことは悔やまれるが。
「本当はきみ……失血死狙えるくらいに、好調なんじゃないか?」
「いや、全くと言っても良いほどだ。なんせ連戦連敗、やっと捕らえられるのが君ひとりなのだから」
しわがれた声で語るジョゼフにノートンは諦めぎみに笑う。
「もしかしてだが……チェアよりもそちらの方が好みだったかな、白い方の真似ではないがとどめ位は刺してやろう」
爪先が触れそうなほど近寄ったジョゼフ似対しそれは結構と言おうとしたところでヒュウと胸が音をたてげほげほと咳き込む。
「……お貴族様に見せられたものじゃないね」
「………全くだ」
ジョゼフは何かをこらえるような顔をノートンに向け一言呟き姿を消す。
そしてひとつふたつ瞬きをする程の時間の後に、ハンター投降のアナウンスが響いた。

「ノートンっ、ごめんねぇありがとぉ」
「いやはや身内に容赦無さすぎだよねぇ」
そう言ってトレイシーとルカはノートンの肩を抱き、泣いたり笑ったり忙しい。
それを軽くあしらいフィオナの前に立つ。
「散々だったけど………もう一戦いくかい?」
「貴方が追加報酬を貰いたいみたいだからね?」
弱味になるかもしれないだろう?「手を取ってくれ」何て言葉。

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