当たりだってぇ?なら特別なことにならんとなぁ!
(マティアスとリチャード 女体化ネタ)
ガレット・デ・ロワ、そんな名前のお菓子が振る舞われたのは年が明けてからで。
なんでも、中に小さな陶器が入っていて、それが入っていた人はその日一日王様になれるんだとか。
そんな説明を聞いて「まぁ運試しだよなぁ」とつまらなそうなマティアスの隣でリチャードが得意げな顔で件の陶器を見せびらかして来た。
「ふふ、どうだいマティアス。私の運もなかなかのものだろう」
「そうだね……そういえばそれ、何人かぶんに入ってるらしいよ」
本当かい!?と声を荒げる彼の姿はマティアスにとってはとても好ましいもので、面白可愛いだなんて思いながら手を出さずにはいられなかった。
それが昨日の話。
予定のない休日、いつものように気に食わない相方である人形を燃やしさて怠惰な一日を堪能しようと思った矢先コンコン、とノックの音が響き来客を知らせる。
「……誰だ?」
「私だ」
ドア越しに聞こえる声はリチャードのもので、なに用かと思いながら扉を開ければそこには毛布の塊がそこにあった。
「匿ってくれないか」
「……一体何があったんだよ?」
そう尋ねながら、まるでゴーストかなにかだと思いながら半ば無理矢理部屋に引き入れた。
すると、毛布からリチャードがひょっこりと顔を出した。
元々中性的な顔立ちであったが、今日は一段と女性的だ。
「で?一体なにがあったんだよ?」
「その……なんだ。少し、な」
「ちょっとってレベルじゃないだろ」
そう、毛布を剥がせばそこにはいつものリチャードの服装とは打って変わって真っ黒なドレスを着ており、大きく空いたスリットからは滑らかな脚が覗いている。
そして開いた胸元は見事な双丘が存在していた。
「………ねぇ、胸……」
「良いから黙っていてくれ!」
「いや、だって……。そんなどこからどうみても女なんだけど……」
「……朝起きたら身体が変わっていたんだ、私の他にも昨日当たりを引いた面々の性別が変わっているらしくってね。それで、その……フィオナが服を貸してあげると………騙された」
「いやそこでのこのこついていく方が悪いだろ」
それはまぁそうなんだけど、と顔を手で覆いながらリチャードは項垂れる。
そんな事が起きているならばいくらふざけた場所といえど騒ぎになるだろうし、そのうち収集がつくだろう。
はぁ、とため息をつきながらこれからどうするかと頭の中で算段を立てざるを得ない。
「………ねぇ、匿ってやるからお前……とりあえず僕のシャツでも上に着ておけよ。正直、ちょっとグッとくる」
「バカ!そういう冗談はよしてくれないか……服は貸してもらうけども!……あぁもう最悪だ。昨日はあんなに良かったと言うのに」
そう嘆きながらリチャードはパタパタと動き始めた。
そんな姿を見ているとなんとも言えない気持ちになる。好いた相手であると言うことを抜きにしても所謂扇状的な体つきをしている上にあっさり騙される無防備さ、よくもまぁ手篭めにされなかったと思ってしまう。
しかし、そんな視線にリチャードが気づかないわけもなく。
彼は少し頬を赤らめて、マティアスのいるベッドまで近づいてきた。
「マティアス、その……あまり見ないでくれ。恥ずかしい」
「……いや、その……。……なぁ、お前って本当にアホだよな」
「は?」
「いや、だってさ。普通、そんな格好で男の部屋まで来る?」
僕の理性が鋼鉄じゃ無かったらロクなことにならなかったぞ。そう言葉を続けてマティアスはリチャードの手を引き、二人してベッドに倒れ込むように横になる。
「マ、マティアス?!」
「……なぁ、自分が今どれだけ無防備な姿してるかわかる?」
耳元で低く囁く声に思わず肩を竦めれば、リチャードは自分の背中に手が回された事に気づく。
「あ、あの……」
「ねぇ、前にも言ったよね。お前の事好きだって」
「あぁ……でもそれは私が姉上に似てる顔だから当然だと……」
「そんなわけないだろ。お前の姉なんか声もしらねぇよ」
だから、と言葉を続けながらマティアスはリチャードの胸に顔を埋める。
「ちょっとは僕のこと、意識してもらえる?」
その髪から覗く耳が紅くなっていることに、リチャードも気付いた。
最初は勢いだったのだろう。けれども大元の感情は真摯なものだって気づいてしまって。
けれど、それに応えられる資格はないことだけはわかってしまう。
「……マティアス、そういうことは私が元の身体に戻ってから言ってくれると嬉しいよ。だが、私は騎士として……誰かのものになるべきでは無いと思うがね」
そう、リチャードは言葉を返す。
マティアスは、その返答に少し不満げな顔を浮かべるが、それはすぐにフッと笑みに変わる。
そして、リチャードの額に軽く唇を落とす。
それは親愛を示すような軽いもの。
けれどもそれだけに、彼の想いが伝わってくるようで。
リチャードも思わず、頬を赤らめる。
しかし、その頬の紅潮が元からなのかそれとも今の体の影響なのか、それはわからないまま。
ただ二人とも、もう少しだけこのままでと思うことしかできなかった。